読書の時間

アメリカの小学校には読書の時間があった。
転校後の2番目の小学校(当時3,4年生)の時の方が記憶しているが、
おそらく1年生の頃から読書の時間があったと思う。
校内の図書館に行って静かに読書する時間だ。
騒ぐと怒られる。
時々折を見て、本の検索の仕方をレクチャーしてくれることがあった。
覚えているのは、3種類の検索の仕方があると言っていたこと。
著書名と、著者名と、最後の1つは思い出せない。
著書名なら著書名をアルファベット順に並べた"card catalog"があり、それで検索できる。
この引き出しには例えば"AからBa"までの"card catalog"が収まっているということを
示すタグが付いていた。引き出し12個くらいで1つの棚になっていた。
この棚が木製で、結構立派なのだ。傍から見ると家具のようにも見える。
"card catalog"は文庫本より二回り小さいくらいの大きさで、カードの下の方に穴が
開いていて、そこに金属の棒を通してカードが散逸しないように固定していた。
ガッチリは固定していないので、1枚1枚パタパタとカードをめくって
お目当ての本のカードを見付けやすくなっていた。
カードには本の大きさなどの情報とともに分類番号も書かれているので、
その本が納められている本棚の位置が分かるという仕組みだ。
この"card catalog"という単語は何度も聞いた記憶がある。
(日本語では何と言うのだろうか?それは知らない。)
今はさすがにパソコンで検索するだろうから、"card catalog"は死語になっていることだろう。

最初はとにかく何も英語ができなかったので、読書の時間は苦痛以外の何物でもなかった。
そんなとき、National Geographicsのような写真集を見ることを覚えた。
おそらく先生がこういう本もあるよ、
と英語ができない僕に教えてくれたのではないかと思う。
自然を写した写真集をひたすら見ていた。
災害の写真集も見た。そのうちに竜巻の写真を好んで見るようになった。
アメリカの竜巻はとにかく強烈だ。
大きさも凄いし、迫力も凄いし、被害も凄い。
Oklahomaという州がTexasの北にある。鉄砲のような形をしている。
竜巻の被害の写真は決まってOklahomaなのだ。
だから小学校低学年の頃から、僕にとってOklahomaは竜巻の巣ということは常識だった。
大竜巻の被害に遭うと、家を根こそぎ飛ばされる。
竜巻の進路に沿って住宅が消滅する。
bathtubくらいは勘弁してくれるが、それ以外はきれいさっぱり破壊して飛ばされる。
Oklahomaでは緊急避難用の地下室を備えている家もあるようだが、
それがないと命が危ない場合もあるだろう。
という程度の知識は常識だった。
でも、一般の日本人にはOklahomaという州すら知らない人の方が圧倒的に多いだろう。
でも自分は知っている。
長らくそういう状態が続いたが、
数年前 Oklahomaで大きな被害が出た竜巻のニュースが日本でも報道された。
アメリカの小学校の図書館の写真集で見たような光景が日本のお茶の間に放送された。
これで日本でもOklahomaが有名になるかと思ったが、
そのニュースはほんの一瞬のことだった。
毎日大量に消費されるニュース報道の一つとして一瞬で忘れ去られた。
結局、今でもOklahomaは僕にとっては言わずと知れた巨大竜巻の巣だが、
日本では無名のままだ。