音楽の授業

アメリカの小学校には、全員必修の音楽の授業はなかった。
希望者にだけ、特別に音楽の授業があった。
僕は親の方針でその特別な音楽の授業を受けていた。

Vista Grande School でのことだ。
音楽の授業とは、日本によくある声楽ではなく、バイオリンだった。
全員がバイオリンという訳ではなかった。
チェロの人やコントラバスの人もいた。
どういう経緯でか、僕はバイオリンを弾くことになった。
中古でいいのに、親が新品のバイオリンを買ってくれた。
家に持ち帰って試してみると音が出なくて驚いた。
物が擦れる音しかしない。
その後知ったのは、松脂を塗らないと音が出ないということ。
弓に張った馬の毛(クジラと聞いたような気もする)に松脂を塗って初めて音が出る。
どうしてこんなにも音が変わるのか、不思議なくらいだ。
松脂なしだと擦れる音だけだ。
それなのに、松脂を付けると大きく澄んで綺麗な音になる。

 

授業では、先生はよくお手本として音を出していた。
この音を出して、という訳だ。
しかしいつも指、というか手全体を震わせてビブラートを効かせていた。
生徒側はビブラートなしの単調な音しか出せないので、合っているのかどうかすらよく分からない。
そのビブラート止めて欲しいといつも思っていた。
先生は、ほら、この音!この音!と言ってはビブラート付きの音を出すのだが、こっちはビブラートなし。
この音って、どの音よ?と聞き返したかった。
そこばっかり気になっていた。
結局、バイオリンは身に付かなかった。