ハロウィン(Halloween)

僕のアメリカ滞在は4年に若干満たなかったので、Halloweenは3回体験した。
渡米の日がHalloweenの次の日だったのでギリギリ3回だ。
一番記憶に残っているのは、おそらく最後のHalloweenの時のことだろう。

 

1983年10月31日。
日本の学年では3年生、アメリカでは4年生になったばかり。
この年はアメリカ流に楽しもうということで、lanternを作った。
Halloweenの少し前にかぼちゃ(pumpkin)を買いに行った。
アメリカのかぼちゃを見たことがあるだろうか?
オレンジ色で大きいものは非常に大きい。
日本で見るようなかぼちゃをイメージしてはダメだ。
色も大きさも形も全然違う。
かぼちゃの大きさを競う品評会の写真を見たことがあるが、
とても一人の人間が運べる大きさではなかった。
シンデレラに出て来るかぼちゃの馬車を覚えているだろうか?
アメリカのかぼちゃは冗談ではなく、それくらいの大きさにまで育つのだ。
我が家では手頃な大きさのものを買ってきた。
直径50cm、高さ40cmくらいあったのではなかろうか。
Acana Rd の家に帰ってきて、ガレージに仕舞った車の中から台所まで
かぼちゃを運んだ記憶がある。
当時、体力の限界に近いくらいに感じた。
すぐに体重計で重さを計ったら意外に大したことがなくて拍子抜けした。
具体的な重さは覚えていないが。
わりとキリのいい重さだったはず。

 

lanternを作るには、まず、かぼちゃの上部をくり抜いて、中の種を取り出す。
かぼちゃの上部は蓋になるので、綺麗に穴を開ける。
中身をくり抜いてスッキリしたら、目、鼻、口を切り出して顔を作る。
ちょっと怖い感じに、おどろおどろしい雰囲気に切り出す。
くり抜いたかぼちゃの中にろうそくを入れて、最初に切り取ったかぼちゃの上部を
蓋としてはめ込めば完成だ。
あとは Halloween当日を待つのみ。

 

Halloweenの主役は子供たちと言っていいだろう。
どの家も近所の子供たちが訪問するのを待ち構えて、
お菓子をどっさり買いだめして待っている。
我が家もそうだ。
稀にHalloweenに参加する意思のない家も存在する。
そういう家は明かりを一切合切消して闇に消えている。
見るからに近づいてはいけない家と分かる。
かぼちゃのlanternは家の玄関の近くに置いた。
うちはHalloweenやってますよ!というサインでもあるのだ。
要は「営業中」ということだ。

 

夜になるとボチボチ近所の子供たちがやってくる。
"Trick or treat!"
母がやって来た子供が持っている入れ物にお菓子を入れていた。
一人の白人の女の子のことを覚えている。
女の子が一人でやってきて、母がお菓子を入れたのだが、
実は後ろの道路に親が見張っていたのだ。
何だかんだ言ってもアメリカは油断のならない国なので、
実は親が一緒なのだった。
それが普通なのかどうかは分からない。
母が気付いて指摘していた。僕も見た。

 

よし、こっちも出撃だ!
弟と一緒に近所の家を回った。
お菓子を入れるためのプラスチック製の容器を持参していた。
この容器はかぼちゃのlanternを模したもので、オレンジ色で直径20cmくらいの
球に近い形状で、目、鼻、口のシールが貼ってあったような気がする。
最終的にはこの容器がお菓子で一杯になった。
近所のある家に行った時のことを記憶している。
トントンとドアを鳴らすとドアが開き、家にいたおばさんが出て来たのだが、
そのおばさん、頭にバトミントンのラケットが貫通しているコスチュームだったのだ。
無論、両端のネットと柄の部分だけが本物で、
カチューシャのようなもので固定していただけのはずだ。
でも、家の中からそんな大人が出て来たものだから、ちょっと驚きだ。
うおっ、何?何なの?と固まっていると、すかさず、おばさんが
"I have a headache!"(頭痛がするのよ)
こっちも気を取り直して、
"Trick or treat!"
で、どっさりお菓子をもらった。
近所の家々を回って、最終的には容器一杯の釣果になった。
ホクホク顔で帰宅。
後でゆっくり食べた。
今は日本でも普通に見るsnickersのような類いのお菓子がアメリカには沢山あった。
今覚えているのは milky way くらいか。
milky wayは日本ではまだ見たことがない。
この時はこれが最後のHalloweenになるとは夢にも思わなかっただろう。

 

日本に帰国した後、長らくHalloweenが注目されることはなかった。
一部のコミュニティーではHalloweenを楽しむことはあったのかもしれないが、
日本全体としては注目されることはなかった。
知名度も低かっただろう。
しかし近年渋谷を中心に、Halloweenを楽しむようになっているのは隔世の感がある。
日本では仮装に注目されがちだが、アメリカではメインは子供に対するお菓子のやり取りだ。
仮装の要素もあるにはある。
"Trick or treat!"と言って回る子供たちは軽く仮装していることも多いし、
近所の家を訪問すると、家の奥で人々が仮装しているのが見えることもある。
中でパーティーでもやっているのだろう。
この一連のイベントの中で、仮装の部分だけが数十年後に日本に入って来るとは全く想像できなかった。