竹嶋学

この辺りで、当時の友達を紹介しておこう。

 

アメリカ人はGuckoo(ちなみにアクセントは後ろ)と呼んでいた。
この綴りは当て字で、英語風に書くとこんな感じという程度の綴りだ。
発音記号で書くと、[gʌkú:] だろう。
アメリカにいた当時(おそらく後半の2年だけだが)、最大の親友だった。
何故か僕はエスキモーを連想していた。
少なくとも4年生の時は同じクラスだった。
写真で撮ったような記憶がいくつかあるが、記憶の中の学はいつも短パン。
いや、当時は皆、短パンだったのではないか。
彼は勉強も遊びも一生懸命だったイメージがある。

 

前にも書いた、Tetherballという競技の強豪だったように思う。
Tetherball というのは、
地面に立ったpoleの上端から垂れ下がった紐の先ににボールが付いた器具で、
校庭に4つほどあり、昼休みによく遊んだ。
2人で遊ぶ対戦型の競技だ。
ポールを投げて紐をポールに最後まで巻き付けきれば勝負が付く。
自分の陣地にボールが来た時にキャッチすれば攻撃できる。
攻撃は、陣地によって決まる回転方向にボールを投げて紐をpoleに巻き付けることである。
相手は逆方向にボールを投げてpoleに巻き付けようとする。
相手の攻撃をブロックしてボールをキャッチし、自分の向きにボールを投げる。
相手のブロックを突き抜けるくらい強く、タイミング良く投げる。
紐が巻き付ききって、poleにボールが接触したら勝ちだ。
この競技で遊ぶ、短パン姿の学が目に焼き付いている。
学は強かった。
僕は正攻法ではなかなか学に勝てないので、笑わせるとか、不意を衝くとか、
そんなことばかり考えていた。
学はボールを投げるとき、全身の力をこめて、渾身のボールを投げる。
その瞬間に力が萎えるような非常手段を考えていた。

 

最大の親友だが、どこかでライバル心もあった。
Vista Grande Schoolには"Super Citizen of the Month"という賞の表彰があった。
要は月間MVPだ。
教室の中で生徒どうしの間で数人推薦し、最終的には投票によって、その月の表彰者を決める。
一度表彰されると翌月からは対象外になる。
ある月、学が表彰された。
いつも一緒に過ごしているのに、何故学が?
そんな気持ちになった。
ちょっとした嫉妬心があったのだろう。
その数ヶ月後、今度は僕が表彰された。
学に追いつき、並んだ気分になった。
学とはいつも一緒に行動していたが、ちょっと先を行っていたのかもしれない。

確か学だったと思うが、日本の歌よりもアメリカの歌の方が好きだと言っていた。
その理由として、日本の歌は歌詞に情報量が少ないという意味のことを言っていた。
英語だと1音譜に1 syllableが割り当てられるが、日本語だと多くの場合1音譜に仮名で1字が割り当てられる。
すると、自然に内容的には短い歌詞になってしまう。
同じテンポで歌うと、意味的にはゆっくりした流れになってしまい、それが不満だと言っていた。

 

学はタイプライターを持っていた。
行末に達すると、チン!ガーッと音が鳴って次の行の頭に戻って来た。
キーを押すとハンマーが飛び出して紙に印字する物理的な仕組みが丸見えで、なかなか楽しかった。
当時のタイプライターは、活字の付いた金属のハンマーがカーボンを叩いて紙に印字する仕組みだった。
ハンマーは、球場の客席のように整然と並んでいる。半円形の球場だ。
キーを押すと客席からぴょこっと飛び出して、球場の中央にあるカーボンとその裏の紙面を叩く。
どのキーを押してもハンマーは球場の中央に殺到する。
キーを2つ同時に押すと、2本のハンマーは衝突してしまう。
押すタイミングが近すぎても同様だ。そういう様子が物理的に見えるのが面白くて結構遊んだ。
現在のパソコンのキーボードは、当時のタイプライターの配列をそのまま引き継いでいる。

 

確か学の家だったと思うが、ウサギを飼っていたと思う。
ガレージの中でウサギと遊んだ記憶がある。
逃げ出しそうになって、学が捕まえたことがあった気がする。

 

学の家は、玄関を入って右側が廊下になっていて、その廊下の右側に学の部屋があった。
ドアを入って部屋の正面の窓からガレージ前の空間と道路が見通せた。
その窓のある壁に机があって、(その机にタイプライターもあった)
向かって左側にベッドがあった。

 

学の部屋のレイアウトを覚えている(記憶の写真をいっぱい撮った)理由とも関連するのだが、
学とは大きな心残りがあるが、それは後ほど触れたいと思う。